本年度に実施した体験プログラムの中から、歴史文化にまつわる体験「鰊場(にしんば)ツアー」をご紹介します。
ニシン漁で栄えた積丹町の暮らしは、建物や道具だけでなく、人の営みの中に今も息づいています。
本ツアーでは、鰊番屋や石蔵の見学、郷土料理体験、そして積丹町無形民俗文化財に指定されている「正調鰊場音頭」の体験を通して、当時を彷彿とさせる文化に実際に触れていただきました。海森学校としては初めての、漁村文化にふれる取り組みです。当日の様子を、ぜひ最後までご覧ください。
実施日:2025年11月29日(土)10:30~15:00
実施場所/使用施設名: 鰊伝習館ヤマシメ番屋・海森スタジオ(積丹郡積丹町大字美国町船澗39番地)
定員 :20名
主催:積丹町地域活性化協議会
受託事業者:株式会社SHAKOTAN海森学校
協力:積丹町鰊場音頭保存会、一般社団法人積丹やん集小道協議会、北海道アウトドアネットワーク環境保全部会


積丹町は、かつてニシン漁で栄え、「やん衆」と呼ばれる若い出稼ぎ漁業者が東北地方から集まり、漁村文化が育まれてきた地域です。しかし、明治末期以降、時代の変化とともにニシン漁は衰退し、積丹町の歩みを伝える番屋は次第に姿を消していきました。また、ソーラン節や浜料理といった文化の担い手も、高齢化や過疎化の進行により少なくなっています。
本ツアーでは、積丹町の歴史文化を語るうえで重要な拠点である「ヤマシメ番屋と石蔵」を中心に、食文化体験や、地域の作業歌である「正調鰊場音頭」を学ぶ機会を設けました。これらの体験を通して、まちが誇る漁業の伝統を次の世代へとつなぎ、地域の活性化につなげていくことを目的に実施しました。
当日は、ガイドの案内のもと、歴史ある鰊番屋と石蔵を見学しました。建物のつくりや使われていた道具についての説明を聞きながら、当時のニシン漁の様子や人々の暮らしに思いを巡らせます。見学を進めるうちに、地域の参加者からも自然と解説が始まりました。
「この道具は“モッコ”といって、昔は鰊を運ぶために女性が背負って使っていたんだよ」
「これは、鰊粕と魚油を分けるために使っていたものだね」
といったように、次々と現場ならではの知識が語られていきます。地域の方のお話に、参加者同士の会話も広がり、場が盛り上がっていきました。
参加者はそうしたお話に耳を傾けながら、「想像していたよりも大変な仕事だったことが分かった」「今まで知らなかった積丹町の姿だった」といった感想も聞かれ、理解が深まっている様子が見られました。





見学が終わったあとは、昼食の時間です。ここでは、地域で長年お宿を営んでいた料理人を講師に、魚の捌き方を教わりながら、「サケのちゃんちゃん焼き」を一緒に作る食の体験を行いました。


職人に教わりながら、参加者も包丁を手に取り、サケを捌くことに挑戦します。実際の調理では、大きなサケを前に、少し緊張した様子で包丁を入れる場面も見られました。
周りから声をかけ合う場面や、思わず笑いがこぼれる場面もあり、和やかな雰囲気の中で体験が進んでいきました。


サケを捌いたあとは、いよいよちゃんちゃん焼きに取り掛かります。
捌いたサケにたっぷりの野菜と特製のみそだれを合わせ、鉄板で焼き上げていくと、あたりには食欲をそそる香りが広がりました。
調理の場では、地域からの参加者と町外からの参加者が自然に言葉を交わしながら、一緒にひとつの料理を作り上げていきます。手を動かしながら交流が生まれ、あたたかな空気に包まれる中で、調理が進んでいきました。


完成したちゃんちゃん焼きは、「鮭の浜鍋」とともにいただきます。
「おいしい!」という声があちこちから上がり、笑顔あふれるひとときとなりました。普段はなかなか味わえない、体験と一緒に楽しむ食事の時間となりました。
「地域の方と手を動かしながら会話も弾み、距離がぐっと近づいたのが嬉しかった!」という声もあり、食を通じた交流の価値を改めて感じる機会でした。



お食事が一段落したタイミングで、お楽しみの鰊場クイズ大会が行われました。このクイズ大会は、前半の番屋や石蔵の見学で学んだ内容をもとに、ニシン漁の歴史や道具、当時の暮らしに関する問題に挑戦するものです。
「さっき見た道具は何に使われていたかな?」と、参加者同士で話しながら、記憶をたどる様子が見られました。問題が進むにつれて、「あのとき説明していたやつだよね」といった声も上がり、見学で得た知識が少しずつつながっていきます。正解が発表されるたびに、「なるほど!」「そういう意味だったのか!」といった反応もあり、会場は終始なごやかな雰囲気に包まれていました。
クイズを通して、見て・聞いた内容をあらためて振り返ることで、理解をより深める時間となりました。


ツアーの中でも印象的だったのが、「正調鰊場音頭」の体験です。正調鰊場音頭は、積丹町の無形民俗文化財に指定されており、ソーラン節の元歌としても知られています。第一節から第四節で構成され、ニシン漁全盛期の様子を表現した作業歌です。
先ずは、積丹町鰊場音頭保存会の皆様を講師に迎え、当時の漁の現場や鰊場音頭について写真や映像を交えながら学びました。


その後、伝統衣装を身にまとい、保存会のメンバーから直接指導を受けながら練習を行いました。
教わりながら実際に体を動かすことで、作業のリズムや掛け声の意味を体感していきます。
「ドッコイ、ドッコイショ」の掛け声に合わせて網を引き上げる動きを繰り返すうちに、最初は戸惑っていた参加者も、徐々に動きや声がそろっていき、会場には一体感が広がっていきます。
最後には、参加者全員で曲に合わせて鰊場音頭を披露し、積丹の漁業を築いたやん衆たちが生きた時代の空気を、身体いっぱいに感じる時間となりました。





ツアーの最後には、全員で振り返りの時間を設けました。鰊場ツアーを通して感じたことや気づきを、地域住民と参加者がそれぞれの言葉で共有します。
保存会のメンバーからは、「これまで当たり前だと思っていた営みが、外から見ると価値になることに気づいた」「参加者と一緒に過ごすことで、町を見直す良い機会になった」「自分たちも鰊文化や当時の出来事を、もっと学んでいきたい」といった声が聞かれ、地域の中にも新たな気づきや前向きな変化が生まれている様子がうかがえました。
一方、参加者からも、「鰊場音頭という伝統から、地域のもてなしを感じた」「鰊番屋に響く笑い声が心に残った」「地域の方々が歴史文化を大切にしている姿が印象的だった」といった感想が寄せられ、体験を通じて地域の魅力がしっかりと伝わっていることがうかがえました。
こうした対話や関わりを重ねる中で、参加者と地域との距離は少しずつ近づき、単なる受け入れと参加という関係を超えて、「また関わりたい」「一緒に何かできたら」といった関係性も生まれつつあります。外から訪れた参加者の視点と、地域に暮らす方々の想いが交わることで、これまで当たり前にあった文化の価値があらためて言語化され、次世代へとつないでいく意識が育まれる時間となりました。


本ツアーは、漁村文化の継承と地域の魅力を伝える取り組みの一つとして実施しました。
今後は、参加者の声や地域の意見を踏まえながら内容の充実を図るとともに、より広がりのある取り組みへと発展させていきたいと考えています。本事業を通じて、地域の意識と関係性の両面に変化が生まれたことが、大きな成果となりました。
最後に、本事業の実施にあたり多大なるご協力を賜りました関係各位に、心より御礼申し上げます。
